この記事では、ビートルズの数多い名曲の中から、特に「美しい」と感じられる作品を3曲ピックアップしてご紹介します。
単に有名というだけでなく、聴いた瞬間に心を打つ旋律や、時代を越えて愛され続ける理由が詰まった曲ばかりです。
美しいメロディーといえば、やはりポールの楽曲が頭に浮かびます。
もちろんジョンの書いた楽曲にも心に残るものは多いのですが、旋律の流麗さや歌声の透明感といった観点から選ぶと、どうしてもポールの曲に偏ってしまうのです。
今回ご紹介する3曲も例外ではなく、彼の音楽センスの豊かさが際立っています。
こうした事実が、ポールが「稀代のメロディーメーカー」と呼ばれる所以なのでしょう。
彼が描くメロディーは、シンプルでありながらもどこか普遍的で、聴き手の心に深く刻み込まれる力を持っています。
アンド・アイ・ラブ・ハー

「アンド・アイ・ラブ・ハー」は、1964年に発売された3枚目のオリジナル・アルバム『ハード・デイズ・ナイト』のA面4曲目に収められている作品です。
当時のビートルズが持っていたエネルギッシュさと実験精神の中で、静かで抒情的な一面を垣間見ることができる貴重な楽曲として知られています。
冒頭はジョージ・ハリスンが奏でるアコースティックギターのリフで始まり、シンプルながら印象的な響きが耳に残ります。
その上にポールの歌声が重なり、切なさと温かさを併せ持った雰囲気が曲全体を包み込みます。
このラブ・バラードはポールの創作によるものですが、ジョン・レノンもミドルエイト部分でアイデアを出し、二人の感性が融合することで完成度が高められました。
アコースティック編成を中心としたアレンジは、全体に淡い哀愁を漂わせ、若干20代前半の青年が作ったとは信じられないほどの成熟を感じさせます。
シンプルさの中に洗練されたセンスが光り、当時の彼らの表現力の高さを物語っています。
演奏面でも特徴的で、エレキ楽器を使用しているのはポールのベースのみ。ジョンとジョージがそれぞれアコースティックギターを担当し、リンゴはボンゴを叩いてリズムに温かみを加えています。
ドラムセットを使わない編成はバンドとしては異例であり、シンプルな楽器構成が逆に曲の情緒を引き立てています。
結果として、「アンド・アイ・ラブ・ハー」はアルバムの中でも異彩を放つ存在となり、後年に至るまで多くのアーティストにカバーされるほど愛され続ける名曲となりました。
イエスタデイ(Yesterday)
「イエスタデイ」は、1965年8月6日に発売された5枚目のアルバム『ヘルプ!』のB面6曲目に収録されている楽曲です。
当時のビートルズにとって新たな境地を切り開いた作品であり、後に世界中で最も多くカバーされた曲のひとつとしてギネス記録にも残るほど有名になりました。
作詞作曲のクレジットはレノン=マッカートニー名義ですが、実際にはポールが一人で書き上げた作品です。
夢の中でメロディーが浮かんだという逸話は特に有名で、当初は「スクランブル・エッグ」という仮タイトルで歌われていたほど。
14歳のときに亡くした母への想いが曲の根底にあるとされ、シンプルでありながらも深い哀愁を帯びたバラードになっています。
レコーディングの場には他のメンバーも同席しましたが、実際に演奏に参加したのはポールだけでした。
彼がアコースティックギターを弾きながら歌い、その後で弦楽四重奏をオーバーダビングするという形で仕上げられています。
当時のビートルズとしては異例の録音方法で、バンドという枠を超えた試みでした。
弦楽器のアレンジはプロデューサーのジョージ・マーティンが担当し、クラシック音楽の要素を取り入れつつもポールのアイデアを活かすことで、ポップスとクラシックの融合という画期的なサウンドを作り上げました。
その繊細で美しい響きは時代を越えて多くの人の心を掴み、発表から半世紀以上経った今もなお色褪せることがありません。
「イエスタデイ」は何度聴いても心に響き、ポールの才能と音楽の普遍性を強く実感させてくれる、まさに名曲中の名曲です。
ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア
「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」は、1966年に発売された7枚目のアルバム『リボルバー』のA面5曲目に収録されています。
『リボルバー』はサイケデリック・ロックの先駆けとして語られることが多く、革新的な楽曲が並ぶアルバムですが、その中でこの曲は穏やかな雰囲気を湛えた異色の存在です。
ポール・マッカートニーが中心となって制作したバラードで、高音域を生かしたボーカルは柔らかく澄んでおり、聴く人を夢のような世界へと誘います。
シンプルで静かなアレンジながら、バックコーラスにはジョンやジョージの声が重なり、独特のハーモニーが立体感を与えています。
歌詞は「愛する人のそばにいつもいたい」というシンプルなメッセージを丁寧に紡ぎ出し、日常の中にある愛の尊さを静かに伝えてくれます。
サイケ調の実験的な楽曲が並ぶ中で、あえて抑制された美しさを選んだことで、アルバム全体のバランスを整える役割も果たしています。
後年、この曲は多くのアーティストに影響を与えたといわれ、音楽評論家からも「ポールの最高傑作の一つ」としてしばしば挙げられます。
静けさの中に潜む深い感情表現と、繊細なメロディーラインは、今なお色あせることなく多くの人の心を掴み続けています。
まとめ
今回は、ビートルズの美しい曲を3曲ご紹介しました。
どの曲も単なるヒットソングという枠を超え、時代や国境を越えて多くの人々に愛され続けている理由が確かにあると感じます。
メロディーの普遍性、歌詞の深み、そして演奏の巧みさが三位一体となり、半世紀以上経った今でも新鮮な魅力を放っているのです。
これらの曲を聴くたびに、その時々の心情や状況によって新しい感動や発見があり、まるで音楽が生きているかのように感じられます。
若い頃に聴いた時と、大人になってから耳にする時では、受け取る印象や響き方が変わり、人生とともに歩んでくれる音楽の大きさを実感できます。
改めて、ビートルズが残した音楽は単なる流行の産物ではなく、世代を超えて人々の心をつなぐ力を持っていることを教えてくれる3曲だと思います。
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